私がアーチェリー、洋弓という道具に関わったのは約50年前に、今はもう存在しない県内のあるスーパーストアのスポーツ用品売り場で、ヤマハの洋弓YAモデルで12000円の入門セットを小遣いで購入したことに始まります。アーチェリーという競技を知りたくても、ろくな指導書もなく、私の地元では古本屋でその当時でも時代遅れな解説書が少しあった程度です。そんなムラムラとした欲求を抱えた状態で進学した大学に、なんとアーチェリー部があったのです。創部してまだ4年程度の新興クラブでしたが、私が入部したことは言うまでもありません。さすがに、競技として始めたからには、ヤマハのYA-20ポンドを使い続けるわけにもいかず、あらたにマイボウ買う必要がありました。しかしながら、群馬の田舎から東京の大学に進学した身の上で、生活費に余裕があるわけでもなく、できるだけ安価で試合に使える弓を探す必要がありました。当時は、ワンピースボウが主流で、ヤマハの初めてのテイクダウンボウであるYTDモデルが発売された年でもありました。ハンドルとリムのセットで6万円であったと記憶しています。家賃2万円の学生にヤマハ製の弓具は購入可能なレベルのものでありませんでしたが、当時は最初のアーチェリーブームが少し下火になった時期で、国産メーカーも数多く乱立していました。和弓で世界的にも有名なアサヒ弓具でさえもオリジナルのアーチェリーモデルがあったんです。アサヒ弓具としても自前の生産工場を所有していたわけではないでしょうから、これは、あくまで想像ですが、どこかのメーカーに製造委託していたのだと思いますが、同じデザインのワンピースボウが違うブランドでも販売されてもいました。東京の立川デパートで見つけたのが、Featherという野球グローブなどを販売していたブランド製のワンピースボウです。アサヒ弓具のHi-Deluxというモデルと同じ外観の66インチ34ポンドの弓でした。この弓にヤマハ純正の66インチストリングを張ると、ブレースハイトは9インチを超えてしまい、射ってもひじょうに感触の悪いものとなってしまいました。当時の学生が使用する弓のポンド数は36ポンド程度が標準でしたから、34ポンドでブレースハイトが9インチ以上でドローレングス26インチ、アルミ矢を使用した場合、サイトのエクステンションや、30インチスタビが流行り始めた時期でもあり、90メートルの的を狙うには的に上の風見旗を目安にしなければなりませんでした。弓具の常識として、ブレースハイトを下げれば矢の初速が上がりサイトが上がるわけですが、ストリングを自作しなければ自分の弓に合うストリングがなかったわけです。そこからストリングの自作を始めたわけですが、34ポンドの弓ではそれでも90メートルを射つのは難しいものがありました。大学も3年次に至った時点でヘソクリも幾らか余裕ができ、同輩の所有するのと同様のテイクダウンモデルに買い替えようとしたのですが、ヤマハは高級モデルであるYTSLの販売を始めた時期でもあり、やはり高額すぎてヤマハ製には手が出ませんでした。そんななか、古くから学生の間で使われていた新潟のメーカー、Marksmanから世界で初めて東レのトレカ・カーボンを組み込んだMagne-TDというモデルが、ヤマハのYTDと同様の価格で発売されたため、それに飛びついたというわけです。当時の最先端であったケブラー製のストリングを標準添付にする等、非常に尖ったモデルでした。ストリングの解説でも紹介させていただいたとおり、ケブラー製ストリングは、ダクロン製ストリングに比較して、まったく伸びないことが特徴で、サイトレベルも大きく上がるため、長距離を射つのは最適なストリングでした。ところが、ストリングの寿命が非常に短く、300射もすればほぼ確実に破断するという欠点も持ち合わせていました。そのため、ケブラー製のストリング原糸で常時、スペアのストリングを製作して用意しておく必要がありました。
思い出話が長くなってしまいましたが、私がアーチェリーに関わった当初から、ストリングを自作しなければならなかった経緯の一端をお話できたのではないかと思います。MarksmanやMAKITAなど、国内の中小メーカーはその後数年で衰退してしまいましたが、ヤマハとニシザワだけがメーカーとして存続しました。しかし、両メーカーともオリジナルのリム設計にこだわり、ストリングの長さは共通ではなかったと記憶しています。現在では、国産の弓具はいにしえの存在となり、Hoyt製リムを基準としたHDS(ILF)システムが標準となっていますが、Hoyt自身でさえもFormulaモデル発表以降、従来のストリング長の基準を変更してしまい、混乱を招く原因にもなっているわけですが、欧州系メーカーはストリング長をHoytに揃える気はさらさら無いようで、かつての日本のヤマハ、ニシザワ同様、オリジナルのリム設計にこだわり、ストリング長の混乱に拍車をかけているわけです。
どのメーカーの弓具でも共通して言えることは、それぞれ標準的なブレースハイトに設定しないと、予定した性能が発揮できないということです。66インチ、68インチなど、弓の長さを示す漠然とした基準はあっても、リカーブ形状の設計次第では、標準的なブレースハイトとするためのストリングの長さが違ってしまうため、メーカーごとのストリング長の違いは今後も続く可能性が高いと思っています。
いずれにしても、最適なブレースハイトで弓具を使用することは基本であり、メーカーの思惑が入り乱れた状況でもアーチャーの皆様に最適なストリングを提供していくのが、当ウェブの使命と考えていますので、ご要望があれば遠慮なくご連絡いただければ幸いと思っています。
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