初心者弓のストリングについて思うこと

 初心者向けの練習用リカーブボウでは、ダクロン製ストリングの使用が一般的ですが、レンタル用に使われる初心者弓で異常に高いブレースハイトのまま、初心者に使用方法を指導している光景をよく見かけます。これでよいのでしょうか。

 ダクロン製ストリングの特徴は、非常に弾力性があり、伸び縮みするところです。つまり、弓に張った状態では徐々に伸び、外しておくと縮むということです。この弾力性の特性により、空射ちする可能性のある初心者弓でもリムの損傷を抑えるという目的を期待しているのだと思います。

 現在ではダクロン製ストリングは初心者向け弓具用と定義されてしまっていますが、数十年前はれっきとした競技用のストリング素材でした。当時は、伸びることを前提にストリングとして必要な長さから、どれだけ短く製作するかが適正なストリングを作るキモだったわけです。リムの強さによっても伸びの加減は違いますから、強いリムにはストランド数を増やして対応していました。ダクロン製ストリングは、弓から外した状態では縮んで元の長さに戻ってしまいますので、最初に弓にストリングを張った段階で伸ばすという作業が必要でした。そうした弓具で、アルミ矢を90メートルまで飛ばすという時代でしたから、リムもそれなりに強いものが使われていました。ですから、伸ばすという作業を怠っても、何本か射つとストリングが自然に伸ばされて安定するということもありました。

 ところが、現状の初心者用弓はどうでしょう。リムの強さは20ポンド以下というものも多いため、弓の組み立て時にストリングを伸ばしておいても、リムの張力が弱いためストリングの縮もうとする力に負けて伸ばされた状態を保てない、ということが起こっているような気がします。これが異常に高いブレースハイトになる理由の一つだと思います。

 さらに、もう一つ根本的な原因として、市販のダクロン製ストリングが弓具の変化を考慮せず、昔のままのサイズで販売され続けていることにあるのではないかと考えています。現状のダクロン製ストリングも40ポンド前後のリムを使えば、伸びて適正なブレースハイトになるのかもしれませんが、前述のとおり、初心者弓にも適合する理由にはなりません。また、競技用リカーブボウでHOYT社がFormulaあるいはGrandprix規格のリムを発表以降、必要とするストリングの長さが旧来のものから一気に2センチも長くなって混乱が起きたことは記憶に新しいところです。

 先日、Sanlida社から初心者グレードの弓を取り寄せたところ、付属していたダクロン製ストリングが異常に短いことに気づきました。そこで、当方で販売しているものと交換してみたところ、ブレースハイトがわずかに下がったものの、一般的に標準と考えられる8+1/2インチよりも大幅に高いブレースハイトのままでした。当方で製作しているダクロン製ストリングは、SHIBUYA製のものを基準サンプルとしているので、一般的に市販されているものと大差はないはずです。考えられることは、Sanlida社をはじめ、近年初心者向けリカーブボウの製造販売を始めたメーカーは、リムの長さをFormulaあるいはGrandprixに合わせたのではないかということです。リムが長くなっているのに、旧来と同じ長さのストリングを使えば、ブレースハイトが異常に高くなるのは当たり前です。これが、初心者弓用として販売されているダクロン製ストリングの現実なんだと思います。

 初心者向けの弓具の調整は、しょせん一時的に使用するものとして、軽視されがちですが、そんな環境で自分の弓具を入手できた初心者が適正なチューニングを意識できるでしょうか。どんなに初歩的な道具であっても適切な調整で使用されるべきです。

 そこで、当方では従来のサイズよりも2センチ長くしたダクロン製ストリングの製作を始めようと計画しています。ある程度の数量が完成した段階で通販商品に加える予定です。コロナの影響もしばらく収まる気配がありませんし、レンタル弓の汚れで黒ずんだストリングを使いまわす衛生上の問題を指摘されたら、用具を貸し出したアーチェリー指導者側の責任を免れるのは難しいことも予測されます。レンタル弓のストリングは、使う人ごとに更新し、入門者には真っ白なストリングを使わせてあげようではありませんか。